名古屋市立幼稚園推薦の言葉
このページでは、名古屋市立幼稚園を推薦する言葉を掲載しています。

元文部科学省初等中等教育局幼児教育課教科調査官
津金美智子先生の略歴
- 生年月日
- 昭和31年3月17日
- 役職
- 名古屋学芸大学ヒューマンケア学部子どもケア学科 教授
兼 附属子どもケアセンター長 - 略歴等
-
- 昭和53年
- 愛知教育大学教育学部幼児教育科 卒業
- 昭和53年
- 名古屋市立第三幼稚園 教諭
- 昭和63年
- 愛知教育大学附属幼稚園文部教官
- 平成6年
- 名古屋市立西山台幼稚園教諭(主任 )
- 平成9年
- 名古屋市立第一幼稚園教諭(主任)
- 平成13年
- 名古屋市立桶狭間幼稚園長
- 平成14年
- 名古屋市教育委員会事務局指導室 指導主事
- 平成19年
- 名古屋市立神の倉幼稚園長
- 平成21年
- 名古屋市立第二幼稚園長
- 平成22年
- 国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部 教育課程調査官 併任 文部科学省初等中等教育局幼児教育課教科調査官
- 平成26年
- 併任 文部科学省初等中等教育局視学官
- 平成28年
- 名古屋学芸大学 ヒューマンケア学部 教授(現任)
- 平成29年
- 名古屋学芸大学 ヒューマンケア学部附属子どもケアセンター長(現任)
幼児主体の教育、生活や遊びを通し確かな学びを育む名古屋市立幼稚園
名古屋学芸大学ヒューマンケア学部 教授
ヒューマンケア学部附属子どもケアセンター長 津金 美智子
私は、昭和53年度から平成21年度まで、名古屋市立幼稚園に勤め、その後、文部科学省初等中等教育局幼児教育課の教科調査官・視学官として、全国の幼児教育現場を視察する中、名古屋市立幼稚園の教育の質の高さを再確認しました。
幼稚園教育とは
幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものです。とりわけ、幼稚園は、学校教育のはじまりとして、今、幼稚園から高等学校までの学校教育全体において一貫して育成しようとしている3つの資質・能力(①知識・技能の習得、②思考力・判断力・表現力等、③学びに向かう力・人間性等)を見通して、幼児とよりよい教育環境をつくりだし、幼児がその環境のもとで先生や友達と楽しく充実した生活を営みながら、様々な体験を重ね、生きる力の基礎を育む場です。幼稚園教育では、幼児期にふさわしい生活や遊びを通して幼児が学ぶこと、その過程を大切にする教育をしています。
名古屋市立幼稚園では、こうした文部科学省が示す幼稚園教育の基本に沿い、小学校以降の教育や生涯にわたる学習とのつながりを見通しながら、幼児の遊びを中心とした教育を重視しています。幼児主体の教育を大切にしているのが、名古屋市立幼稚園です。
「遊び」を中心とした教育の重要性 -遊びを通して学ぶとは―
一般に「遊ぶ」ということと「学ぶ」「学習する」とは反対のこととして受け止められていることが多いようです。
しかし、幼児期はそうではありません。幼児期は、幼児の興味や関心から離れて一方的に知識や技能を教えられ身に付けていく時期ではありません。幼児は「面白そう」「やってみたい」などと身近なもの・人・出来事などに心を動かし自分から関わり、体験を通して学んでいきます。この「心を動かし自分から関わり体験する」ことが、幼児の「遊び」です。そして、この遊びの中で、自分なりに実感を伴って理解していく過程が、「学び」です。自分なりの感覚で楽しんだり、試したり、考えたり、工夫したりする過程こそが、幼児の「学ぶ」姿です。できたかどうかの結果のみで判断したり、早く成果をあげることを求めたりすることではありません。幼児が自分なりのやり方とペースで、一つ一つ納得しながら自分の中に取り込んでいく過程を大事にすることです。
ここで、名古屋市立幼稚園で出会った5歳児の姿を紹介しましょう。
A児・B児の二人は、マカロン屋さんごっこをしようと、お店の看板に『まかろんやさん』と書こうとしている。
最初の『ま』『か』は知っている様子で、すぐに書いたが、次の『ろ』になると、「ろ・ろ・ろ・・・」と口には出すものの、文字が思い浮かばないようである。
A児が「ろ」と何度も繰り返し発していると、それを聞いていたB児が「ろ・ろ・・どこかにかいてある」と言う。
その後、二人は保育室内の遊具や材料の置いてある棚の表示を見ていく。
そして、その中から『せろはんてぇぷ』という表示を見付ける。一文字ずつ声に出して読みながら「『ろ』だ」と言って、戻って看板に書く。
さらに、『まかろんやさん』の『さ』の文字を書こうとする際、二人は顔を見合わせて笑っている。
「さ・さ・さ・・・あっ、先生の(名前の)『さ』だ」と言う。
看板を書き上げると、二人は満足そうに店の前に掲げた。
文字を幼児がどのように認識しているのか、また、認識していくのか、そして、文字を読んだり書いたりという行為にどのようにつながるのかがわかる姿です。
5歳児の10月ですので、ある程度の文字が読め、書こうとするようにはなってきていますが、全ての文字が書けるわけではありません。
では、わからない文字はどのように書こうとするようになるのでしょうか。A児は、『ろ』と何度も発しながら表したい文字を確認しています。その後、その音と同じものが保育室内の表示の中にあるかもしれないと予想して、友達と探すことを思いつきます。身近な環境に主体的に働きかけようとする姿です。そして、『せろはんてぇぷ』という文字を発見し、その中に同じ音の『ろ』の文字を探し出し、その文字を見て書きながら認識していっています。
さらに、二人の心を動かしたのは、『さ』です。その文字が、大好きな担任の先生の名前の一文字であることを思い出し、うれしくてたまらないのです。先生との心のつながりが見えるような姿です。それ故、書くこともうれしく、出来た看板を満足そうに掲げたのでしょう。
ここでの幼児の姿は、文字の習得のための遊びではありません。幼児の側からすれば、「マカロン屋さんごっこをしたい」という思いに突き動かされて楽しんでいる姿です。自分のしている遊びに看板が必要だから、喜んで読んだり書いたりし、文字を自分の中に取り込んでいったのです。保育室の文字の表示という、身近な環境に幼児が主体的に関わり、友達とのやりとりを通して気付き、納得しながら自分の中にため込んでいく、その結果として、文字が言葉と同様に伝える機能のあることを感じ取り、喜んで文字を自分の中に取り込んでいっています。この過程こそ、まさに幼児が「学ぶ」姿です。
幼児期に育みたい資質・能力とは
最初に述べた「学校教育全体で育みたい資質・能力」につながる「幼児期に育みたい資質・能力」について考えてみましょう。
それは次の3つです。①豊かな体験を通じて,感じたり,気付いたり,分かったり,できるようになったりする「知識及び技能の基礎」、②気付いたことや,できるようになったことなどを使い,考えたり,試したり,工夫したり,表現したりする「思考力,判断力,表現力等の基礎」、③心情,意欲,態度が育つ中で,よりよい生活を営もうとする「学びに向かう力,人間性等」です。
先ほどの遊びを例にして考えれば、自分たちの看板に必要だから文字を書きたいという思いが「学びに向かう力」。書きたいけれど文字が分からないのでどうするか、友達と一緒に乗り越えようとする姿が「人間性」です。そして、様々な文字を探していく過程で、自分たちの課題を考え解決していく姿に「思考力・判断力・表現力等の基礎」となる姿があります。そして、「せろはんてぇぷ」の文字を見つけ、「ろ」や「さ」の文字を納得しながら書いていく姿は、幼児なりの「知識及び技能の基礎」となります。これらの資質・能力は別々のものではなく、幼児の遊ぶ姿の中で絡み合っています。
これらの学校教育で育みたい資質・能力は、幼児の遊びをただ、「遊んでいるだけ」と捉えていては、決して見えてきません。幼児が夢中になって遊ぶ姿には多くの学びが潜んでいることを捉えたり、それらを予想して必要な物や場面を用意したりする、幼稚園教諭の専門性としての力が問われます。
幼稚園教諭の専門性
「面白そう」「不思議だな」「やってみたい」などの心の動きを伴って遊びに夢中になる幼児の姿には、自分なりに考える、試す、予想する、比べる、確かめる、工夫する、関連付けて捉えてみようとするなどの様々な学びが潜んでいます。その過程そのものが幼児期の「学び」の姿です。幼児の遊ぶ姿から、幼児が何を学んでいるか、それを捉えられるのは、愛情をもって幼児のことを理解しようとする教師だからこそです。
教師が幼児の何気ない表情やしぐさ、微かな行動の変化や言葉の奥の意味などを深く理解することで捉えられる「学び」です。この幼児の「学び」の姿を生かし、幼児とともに生活や遊びの教育環境を創造できるのは、質の高い専門性をもった教師ならではです。
名古屋市立幼稚園への期待
こうした幼児期にふさわしい生活や遊びを通して幼児の「学ぶ」姿をしっかりと育てるとともに、その学びを的確に捉え、小学校教育へとつなぐことができるのは、名古屋市立幼稚園の先生方であり、名古屋市立幼稚園での生活や遊びの空間、場、そして時間です。
こうした幼児期の学びを、保護者の方々、地域の方々と共有し、幼児期の遊びを通して、確かな学びを育んでいってほしいと願わずにはいられません。