校長のひとりごと


第4号  5月19日(金)

モヤモヤそうだんクリニック


 みなさん、運動会(うんどうかい)練習(れんしゅう)、がんばっていますね。月曜日(げつようび)朝会(ちょうかい)(わたし)()ったことを(おぼ)えていますか。
 勝負(しょうぶ)
には勝者(しょうしゃ)もいれば、敗者(はいしゃ)もいる。勝者は敗者をたたえ、敗者は勝者を祝福(しゅくふく)する。そんなことを言ったつもりです。「()った」「()けた」はあるでしょうが、勝負のあとはお(たが)いにたたえあいましょう。
 さて、私が月曜日、出張(しゅっちょう)で、おもしろい講演(こうえん)()きました。脳科学者(のうかがくしゃ)池谷裕二(いけがやゆうじ)さんという人の(はなし)でした。おもしろかったので、池谷さんの(ほん)検索(けんさく)し、私の()きな絵本作家(えほんさっか)のヨシタケシンスケさんが()()いた本があったので、()みました。それが「もやもやそうだんクリニック」という本です。これは、ある学校(がっこう)の3(ねん)から6年までの子どもたちが池谷さんに質問(しつもん)をして、それに池谷さんが(こた)えたものをまとめた本です。
 こんな質問がありました。「簡単(かんたん)暗記(あんき)する方法(ほうほう)はありませんか」私なら、ドラえもんにたのんで、暗記パンを()してもらうなんて、答えそうです。池谷さんはこう(こた)えました。
 残念(ざんねん)ながらありません。人間(にんげん)(のう)はゆっくりあいまいに(おぼ)える性質(せいしつ)をもっているそうです。脳が発達(はったつ)していない動物(どうぶつ)は、見たものをそのまま記憶(きおく)する(ちから)(たか)いが、なかなか応用(おうよう)がきかない。でも、人間の脳は表面(ひょうめん)に見えている情報(じょうほう)だけではなく、その(おく)にあるさまざまな情報をつなぎ()わせながら、状況(じょうきょう)をとらえようとします。そのために学習(がくしゅう)時間(じかん)がかかるそうです。
 算数(さんすう)公式(こうしき)を覚えるのにどんな方法がいいか。
 ①「公式を何度(なんど)()()う」 ②「学んだ公式を何度も(こえ)に出して()む」 ③「学んだ公式を何度も()き出す」 ④「公式が出てくる問題(もんだい)をなんどもとく」 
 4つの方法を比較(ひかく)する(まえ)に、2つの単語(たんご)を覚えてください。知識(ちしき)情報(じょうほう)を脳に()りこむことを「入力(にゅうりょく)」、反対(はんたい)に、一度(いちど)取りこんだ知識や情報を(そと)に出すことを「出力(しゅつりょく)」といいます。
 ①は入力だけ、②は読むだけでなく、(こえ)に出しているので、両方(りょうほう)、③と④も両方ですが、④の方が実際(じっさい)に問題をといているので、知識を使(つか)回数(かいすう)(おお)いです。脳は、知識や情報が入ってきたとき、それらを記憶した方がいいか、(わす)れた方がいいかを(かんが)えます。そして、使う機会(きかい)が多いほど、「覚えておこう」と思います。だから、効果的(こうかてき)勉強(べんきょう)方法は④になり、④→③→②→①の順番(じゅんばん)で効果が(ちい)さくなります。
 もう一つのポイントは「公式がどうして生まれたか」という理屈(りくつ)背景(はいけい)を知ることだそうです。複雑(ふくざつ)な公式の()()ちをたどるには、調(しら)べる時間(じかん)もかかります。でも、そのことにより、脳は「この情報は大切(たいせつ)だ」と思うことができます。まったくおすすめできないのが丸暗記(まるあんき)。テストの前の夜にいっきに覚えて、いい点数をとっても「記憶にとどめておく情報」として脳に定着(ていちゃく)していないので、応用(おうよう)がきかず、忘れやすいそうです。すぐに覚えられなくても、ゆっくり覚えることが大切だそうです。

モヤモヤそうだんクリニック 池谷裕二(文) ヨシタケシンスケ(絵) NHK出版 参考