重度・重複障害児のコミュニケーションを育てるための指導について

目的:A子が好きな活動を通して、何らかの意思の表出を引き出し、教師がそれを受け止め応えて意味づけしていくことで、A子とのコミュニケーションの成立を目指す。

結果:◆ ビデオを繰り返し見て検証したことで、それまで見えなかったA子からのさまざまな表出、「教師の問いかけに応えるような挙手、言葉がけで次の行動を予測するような視線の動き」に気づかされた。A子が表出していないのではなく、筆者がA子からのサインを読み取れていなかったことが分かった。◆今までは教師の呼びかけや呼名にタイミングよく挙手しても、A子からの意思の表出とはとらえていなかったが、この研究を通して、挙手はA子からの意思の表出ととらえることができた。今後いろいろな学習場面で、A子に確認の問いかけをしていき、挙手したらそれに教師が応えることで、挙手をより確実なコミュニケーションの手段にしていきたい。◆繰り返され慣れた場面では、簡単な言葉と行動が結びつき、教師の問いかけに応えるような視線の動きや挙手が見られるようになってきた。このことから、日々繰り返され慣れた場面では、簡単な言葉と動作は結びつくことが可能と思われる。◆お茶の二者択一がはっきりしてきた。提示されたお茶を一つ一つしっかりと見て、飲みたいものに触って「飲みたい」と表現することができるようになってきた。興味のある実物(絵本など)の二者択一に関しても、二つを比べてそのときどきの気持ちで選択することができた。◆今までは、“お茶”と“自分”の関係が主だった。触っても再度待つようにしたところ、いつもではないが声を出して催促した後、顔を上げて“教師”と視線を合わせるようになってきた。“人”を意識し始めてきたのではないかと考える。挙手をA子の意思の表出としてとらえることで、今まで以上に確認の問いかけをするようになった。簡単な言葉と動作が結びつくととらえたことで、行動するたびに言葉を添えて話しかけたり、簡単なサインをつけたりするようになった。意思の表出の方法として視線や手の動きだけでなく、声を出して伝えることが増えてきた。さらに、教師と視線を合わせたり、手でコップを払ったり、イエス・ノーがより明確にとらえられるようになり、コミュニケーションの質が豊かになってきた。その結果、以前に比べてA子の気持ちを正確に汲み取れるようになり、A子とコミュニケーションができるようになってきた。A子とのかかわりで大事なことは、A子の表情や動作をよく観察し、教師が前後の状況から推察し、A子の表情や動作一つ一つに意味付けをして、言葉を添えて応えることを積み重ねていくことだと考える。今後の課題としては、水分補給で引き出した「視線、手の動き、発声」のA子の意思の表出を、いかに日常生活の他の場面でも使用できるようにしていくか。また、そのほかの伝達手段として、実物や写真カードを使った二者択一を授業に取り入れ、意思決定できる場面をいかに増やしていくか、である。